公正な学習評価は、学生が安易な解決策に逃げることを阻止し、学習全体を通して、「見られている」「支えられている」という実感を学生に与えます。 提出された解答が学生自身の手によるものであれば、教員はその学生をいつ、どのように支えるべきか、適切なタイミングで正確に理解できます。 つまり、公正な学習評価は、学生の学びを正確に測るために欠かせないもので、結果的に学習成果の向上につながります。
学習評価の正確性を保ち、学生の学びを何よりも優先するには、教員と学生の双方に次のような責任があります。
1.学生の責任:課題や試験で短絡的な解決策を避ける
2.教員の責任:包括的な学習評価を計画し、実施する
では、公正な学習評価を実施し、保持するにはどのようにすればいいのでしょう?
もちろん、盗用・剽窃を検知する類似性チェックツール等を活用して、不正行為を阻止し、 学習評価の妥当性を保持する方法もあります。しかし大切なのは、公正な学習評価とは学術不正をなくすことだけでなく、 包括的な指導計画や試験設計、その後のデータ分析という過程を通して、学生を育てることでもあると理解することです。 そのための中心要素である指導計画、試験設計とデータ分析について押さえておきたい点をご紹介します。
指導計画・最初に学習目標を設定しましょう。
学生にこれから何を学ぶのかを伝えることで、学習に対する期待を共有し、目標を明確にすることができます。
・その目標に向かって、指導と評価を一体化しましょう。
教えた内容をテストし、テストする内容を教えることで、公平性を示し、学生にテストへの準備をさせることができます。 準備のできている学生は、不正行為への誘惑に駆られることもありません。
・学生と良好な関係を築き、帰属意識をもたせましょう。
「見られている」という実感があり、形成的なフィードバックを受ける機会に恵まれた学生は、 しっかりと支えられて、不正行為に手を染めにくくなります。
・学術不正の諸形態について意識を高めましょう。
盗用・剽窃など、 さまざまな学術不正の形態を学生に教えるなんて逆効果のように思えるかもしれませんが、不正行為の阻止に役立ちます。 このような新たに生まれた脅威について、学生や教員、管理者がよく知り、理解することで、情報に基づいて先手をうつことができます。
・学習全体を通して、学生を支えるためのローステイクス・テストを頻繁に実施しましょう。
ローステイクス・テストにより学生は「安全に失敗する」ことができ、他方、教員は学生の学習過程を把握して、 指導に生かすことができます。
・複数の問題形式を採用しましょう。
多様な学習スタイルを支持し、さまざまな学習内容を測定することができます。他項選択式のテストなら、 短時間で幅広い知識を測ることができますし、短答式問題では高次の思考力を測ることが可能です。学生にとっても、多様な問題形式があると、 自分の理解力をさまざまな側面から示すことができます。
・エンドツーエンドの学習評価を支えるために、総括的評価と形成的評価をバランスよく実施しましょう。
小テストや中間テストなどの形成的評価により、学生はフィードバックを受けて、それを学習に生かすことができます。 そのようなフィードバックに支えられた学生は、その次の総括的評価において、安易な解決策に頼ることがなくなります。たとえば小論文課題の場合、 書いたものを段階的に提出させることで、学習の透明性が増して指導の機会を増やせるとともに、評価の正確性も保持できます。
・学生の解答を分析して、指導計画や将来の試験設計に生かしましょう。
項目分析を活用して試験問題への学生の解答を分析することで、 どの設問が知識を測るのに最も妥当かを理解し、最適な改善を加えることができます。また、学生の学びを支えるための適切な指導にもつながります。
International Center for Academic Integrityが2021年に開催したカンファレンスでは、不正行為に関するパネルディスカッションが数多く開かれ、 不正をなくすための最善策は学習評価を工夫することだという結論に達しました。
学習評価の工夫により、論文代行などの不正行為をなくすことができるという研究もあります(Sotiriadou, Logan, Daily, & Guest 2019)。 日頃から学習において「支えられている」「見られている」という実感をもち、効果的な学習評価によって次の試験への準備ができている学生は、 自分の学びを大切にし、学術不正に手を染めようとは思わないものです。公正な学習評価を実践するには、指導計画と試験設計を見直すだけでなく、 評価後のデータ分析という過程も学生を育てることにつながることも理解しておきましょう。