一次資料を活用すると、過去の出来事を目撃・参加した人々が残した言葉や画像、人工物を通して、歴史が息を吹き返します。 一次資料はいわば歴史の宝庫であり、さまざまな時代や場所の、人々の思想や感情、経験を私たちに直接教えてくれます。例えば、 戦争の最前線にいる兵士が書いた手紙や、歴史の重要な転換期に若い女性が書いた日記、特定の時代の精神を捉えた絵画など、 一次資料が歴史を垣間見せてくれます。これらの資料を通じて、私たちは過去の世界について深く理解し、 今の私たちを形作っている人類の経験とつながることができるのです。では、一次資料とは具体的にどのようなものなのか、一次資料の例や、 二次資料との違いなどについて見てみましょう。
学生は、資料の分析力を身につけ、自分の偏見を自覚し、批判的思考力を持つために、一次資料と二次資料に関して学び、 適切な参考文献の指導が必要です。フェイクニュースやソーシャルメディアが情報の取得に影響を与える昨今ですが、 一次資料と二次資料に関する学習活動を通して、学生は本物の資料から人類の歴史や事象を探究できます。
一次資料と二次資料は、学生が研究を行い、論文を書き、 その論文が人類の歴史にどのように位置づけられるかを考えるための参考資料として役立ちます。一次資料と二次資料の大きな違いとしては、 一次資料は人間や場所、出来事について、もっとも近い距離(一人称視点)から詳細な情報を提供してくれるのに対し、二次資料や混合資料は、 意味のある情報も含むものの、解釈が加わるために内容が薄まっていることが挙げられます。
一次資料と二次資料を活用した学習により、学生は、過去の複雑さに直面しつつも推論をたてたり、合理的な説明を考えたり、矛盾に対処したり、異なる観点から見た様々な資料を比較することができます。
一次資料は、出来事の直接の記録です。出来事が起こった瞬間や関連する時代に、 個人の日常生活の一部として作られたもので、ひとつひとつに物語が刻まれています。
すべての授業で一次資料を取り扱う必要はありませんが、取り扱う場合、それらの分析には、学生自身の先入観や偏見、 誤解が入り込む可能性を認識させることが重要です。一次資料がもつ意味の解釈は主観的になり得ます。たとえば、 学生が戦争の原因について正確な情報を持っていなかったり、政治運動について強い個人的な意見をもっていたりする場合は、 それらの出来事や時代に関する一次資料が特定のレンズを通して解釈される可能性があります。
さらに、プロパガンダや特定の観点から書かれた新聞記事のように、一次資料そのものに偏見が潜んでいる場合もあります。 どのような種類の情報やメディアを利用するにしても、個人的な見方や偏見、意見が学びに影響を与える可能性を、 学生自身が自覚しなければなりません。
マサチューセッツボストン大学(米国)のヒーリー図書館は次のように説明しています。
一次資料と二次資料の違いを認識することも効果的でしょう。
一次資料:あるトピックについて、それに直接関係した人々による、即時的かつ直接的な記録のことである。 一次資料には次のものが含まれる。
- 法令やその他のオリジナル文書に含まれる原文
- 出来事を目撃した人物、あるいはその人物から伝え聞いた人物による新聞報道
- 演説、日記、手紙、インタビューなど、関係者が語ったことや書いたもの
- 独自研究
- 国勢調査や経済統計などのデータセットや調査データ
二次資料:一次資料から一歩遠ざかったもので、引用あるいはその他の方法で一次資料を使用したものを指す。 一次資料と同じトピックを扱うが、解釈と分析が追加される。二次資料には次のものが含まれる。
- あらゆるトピックに関する書籍全般
- データの分析や解釈
- トピックについての学術論文やその他の記事(とくに直接の関係者によらないもの)
- ドキュメンタリー(多くの場合、一次資料と考えられる写真や動画を含む)
一次資料や二次資料を用いた活動は歴史学や社会学、心理学の授業のみで行われるものと思われがちですが、 これらの文書や資料を分析する経験は分野や学年を問わず有益です。
多くのものごとと同様に、ここでも例外があります。場合によっては、用途やトピックに応じて一次資料が二次資料になることもあります (その逆もあります)。あるトピックから遠く離れた資料や文書が、 別のトピックにおいてはより貴重で関連性の高い情報を提供することがあるのです。ボーリング・グリーン大学(米国)は次のような例を挙げています。
- 科学教育や教科書の歴史をテーマとすると、教科書の歴史的な変遷を調べるうえで、 教科書そのものが一次資料となる。
- 生物の教科書は、科学を記述・解釈しているが、科学に独自の貢献をするわけではないため、 生物学の分野においては二次資料と捉えられる。
まずは、一次資料を定義し、二次資料との違いを明らかにするところから始めましょう。多くの場合、「直接」 という言葉が該当するものは一次資料に分類されます。どちらの資料が学習にとって「より有益」かは一概には言えませんが、 一次資料はトピックについて身近で、詳細な情報を与えてくれるのに対し、 二次資料はもう少し離れた場所からトピックを論ずるものであると捉えることができます。
どの年齢の学生でも活動の最初に問いを立てると、手元の資料をどのように関連付け、どのように情報を集めるのかを理解するのに役立ちます。 たとえば、1940年代にフランスで書かれた日記を読むとき、「日記のこの日の内容から、 1940年代の個人の日常生活についてどのようなことが分かるだろうか?」 「第2次世界大戦が当時のヨーロッパ諸国にどのような影響を与えていたか、日記にはどのように書かれているのだろう?」 といった問いを学生が立てるかもしれません。同じ一次資料を使っていても、学生ごとの問いが、さまざまな結論と学びにつながります。
世界中の著名な大学や機関が、教員向けに一次資料を用いた活動例をオンラインで公開しています。
- オックスフォード大学(英国): オックスフォードの歴史家の最新の研究や授業の基となる一次資料を学生が探索できる活動を提供しています。
- スミソニアン協会(米国):学生が一次資料を調査して、資料に関する質問を分析し、 答えを探す指導案を提供しています。
- クイーンズランド大学(オーストラリア):オーストラリアの歴史やその他の資料に関して、 厳選したアーカイブのコレクションを提供しています。
- 議会図書館(米国):教員が使える指導書と一次資料分析ツールを提供しています。また、 図表やグラフ、原稿、地図、動画などの分析手順を示したPDFをダウンロードすることも可能です。さらに、楽譜や録音物、印刷物など、 所蔵する数百万点ものアイテムの一部を無料で使用できるデジタルコレクションのポータルサイトもあります。
本記事で紹介する活動例は、中等教育または高等教育に応じて調整することができます。 どの年齢の学生でも一次資料と二次資料について理解することには価値があり、 それらの資料を精査する方法を学ぶことで歴史や現代をより深く理解できるようになります。一次資料を検討する方法に加えて、 ターンイットインでは「資料の信頼性を確かめる活動をカリキュラムに組み込むための5つのヒント」を公開しています。 これらは一次資料と二次資料の価値を確かめ、そこから適切な情報を引き出すために必要なスキルを身につけるのに役立ちます。
また、事実と意見の違いを明示的に指導するといいでしょう。そのような指導を通して、 学生は過去の出来事を現代の出来事や考え方に当てはめて、より正確に理解できるようになるでしょう。たとえば、人種差別の記事の読み方について、 1960年代当時は「事実」とされていたことが、現代ではいかに異なるかを話してみてください。リサ・ マクドナルドは事実と意見の違いについて学ぶ初等教育向けの指導案を公開しています。このような学習活動を通して、 研究スキルとオンラインから印刷物までさまざまな情報源に接する方法を身につけるための基礎を、学習の初期段階において築くことができます。
一次資料や二次資料を引用する方法は?学術的には、二次資料よりも、歴史上の実際の人物や出来事に近い一次資料を引用するほうが好ましいとされています。
一次資料の引用MLAスタイルでは、オンライン文献の引用形式は以下のとおり決められています。
- 作品の著者、編者、監督、編集者、ナレーター、演者、翻訳者の名前(著者とウェブサイトの発行元が同じ場合はここでは省略し、 発行元の項目に表記する)
- 作品のタイトル(単独作品の場合はイタリック体で、他の作品の一部である場合は引用符でくくる)
- 全体のウェブサイトのタイトル(イタリック体)※項目2と異なる場合のみ
- 著者以外の貢献者
- バージョンやエディション
- 号数
- 当該サイトの発行元やスポンサー(不明の場合は省略)
- 発行日(不明の場合は省略)
- DOIかURL(DOI推奨。http://は省略)
- アクセス日(オンライン情報の場合はとくに)
例:名字, 名前, "ウェブサイトのセクション." ウェブサイトのタイトル, 他の貢献者, バージョン, 号数, 発行元またはスポンサー名, 発行日, DOIまたはURL. アクセス日. (他のURL.)
Library of Congress. United States Government, 10 Feb 2012, www.loc.gov/. Accessed 16 Feb. 2017.
研究や学術論文では一次資料を引用するのが理想的です。原著を入手できない場合や絶版の場合は、過度でなければ、 二次資料を引用することができます。
APAスタイルでは二次資料の引用について次の通り定められています。
- 参考文献リストには、使用した二次資料の情報を記載する。
- 本文の中では一次資料を明記し、「as cited in〈使用した二次資料名〉」と記す。
- 一次資料の発行日が不明な場合は、本文の引用にもその旨を記載する。
たとえば、Lyon et al.(2014)の中で引用されているRabbitt(1982)を参照したが、 Rabbitの作品そのものを入手できない場合、Rabbitの作品を原典として引用し、その後でLyon et al.を二次資料として提示します。参考文献リストにはLyon et al.の情報を記載します。
- (Rabbitt, 1982, as cited in Lyon et al., 2014)
一次資料の出版年が不明な場合、本文内の引用では省略します。
- Allport’s diary (as cited in Nicholson, 2003)
このように、年齢や分野を問わず、一次資料と二次資料について指導することはとても重要です。 一次資料は対象となる事象に対して直接的に得た情報であり、二次資料は対象となる事象から時を経て語り直し、一次資料を分析、 解釈するものです。一次資料と二次資料の両方を引用することで、学生はバランスのとれた分析視点を養い、 必要とされる批判的思考力を身につけることができます。そこから、学生は、歴史や現代の出来事や問題について、 自分なりの合理的な結論を導き出せるようになるでしょう。