インパクトファクター(IF)は、研究者にとって、自分の研究の影響力を示す指標として重要な意味をもつ指標です。 研究者と出版社の共通目標は、広く認められる重大なインパクトを研究界に与えることです。そして、そのインパクトを測る指標のひとつに、 研究成果がどの学術誌で、どれくらい引用されたかが関係します。
研究者は、影響力の大きな学術誌に論文が掲載されると所属機関内での評価が上がり、それにともない研究資金の増加が期待できます。また、 出版社は、自社の学術誌のインパクトファクターが上げることで業界内での名声を得て、講読率を増加させたいと考えています。 インパクトを残せる研究を求める出版社と、影響力の大きい学術誌に論文を掲載したい研究者を結びつける、いわゆるマッチング・ サービスの役割を果たしていると言えます。インパクトファクターが双方の経済的メリットにつながるのです。
学術誌の影響力や評判を体系化するために、被引用数をもとに算出する「ジャーナル・インパクトファクター(JIF)」 という指標があります。学術誌の評判を測定してランク付けする方法は他にも多くありますが、 掲載論文が一定期間内でどれくらい引用されたかを測定するジャーナル・インパクトファクターがこれまでの業界基準となっています。
インパクトファクターの算出方法基本的に、インパクトファクターのスコアは、直近2年間(あるいは5年間)にその雑誌に掲載された論文のうち、 どれだけの論文が引用されたかの比率により求められます。引用文献のデータベースは、クラリベイト・アナリティクス社のWeb of Scienceが活用されています。
たとえば2021年のインパクトファクターは以下の式で算出されます。
2021年のインパクトファクター = A ÷ B
A:2019年と2020年に対象雑誌に掲載された論文が2020年に引用された回数
B:2019年と2020年に対象雑誌に掲載された論文の総数
インパクトファクターに対する様々な見解インパクトファクターが業界基準として重要視されている一方で、1960年代にこの方法を考案したユージン・ガーフィールドは、 インパクトファクターについて次のように述べています。
「インパクトファクターという用語は、次第に学術誌と著者、両方のインパクトを表すようになってきた。学術誌のインパクトファクターは、 比較的多くの論文数と引用数を含むのが一般的である。もう一方で、個々の著者の論文数は一般的にそれより小さな数となるが、 驚くべき数の論文を出版する研究者もいる。たとえば、移植外科医のトム・スターツルは200本以上の共著論文があるし、経口避妊薬の発明者、 カール・ジェラッシは1300本以上の論文を発表している。」(2006, p. 90)
つまり、研究界と出版界はともに質の高い研究成果を求めていますが、それは多くの場合、被引用数により測られているのです。
また、学術誌のインパクトファクターは、不公正や「コモンズの悲劇」を招くとの批判も集めています。カサデバルとファングは、 数々の問題点のなかでも、インパクトファクターが不公正を助長することを指摘します。どの雑誌に論文を投稿し、 どの研究者に資金を与えるかという決定が、インパクトファクターに左右されるというのです。カサデバルらは、 「被引用率は科学の質と研究成果を測る指標としては不完全」であり、影響力の指標として被引用率を重視することで、 本来であればもっと注目されるべきだが、被引用率が低いために影響力が低いと見なされている研究分野に資金が配分されなくなり、 その分野の研究が進まなくなるとの懸念を示しています。(2014, p. 3)
ホッフェルは1998年になされた議論を紹介し、研究者自身がインパクトファクターを受け入れ、活用し続けていることを指摘しています。
「インパクトファクターは論文の質を測るのに完璧なツールではないが、これ以上に適したものは他になく、 すでに活用されているという点で勝っている。それゆえ、科学的な評価に適した技法とされている。経験上、 それぞれの分野における最高の学術誌とは、投稿論文が受理(アクセプト)されるのが難しく、インパクトファクターも高い学術誌である。 そのような学術誌の大半は、インパクトファクターが考案されるより前から存在していた。 インパクトファクターが質を測る指標として広く活用される理由は、それぞれの専門分野で研究者が評価する学術誌と、 インパクトファクターのスコアが合致しているからだ。」(1998, p. 1225)
インパクトファクター以外の新たな評価方法例えば、エルゼビア社のCiteScoreやSCIMago Journal Rank (SJR)、 Source Normalized Impact per Paper (SNIP)などがインパクトファクター以外の評価方法としてありますが、 どれもスコアの算出に被引用数が重視されています。このような代替手段の登場はゆるやかな変化を示していますが、いまだジャーナル・ インパクトファクターに取って代わる方法はありません。
つまり、インパクトファクターは今後も活用され続ける可能性が高く、これからの研究状況にも影響を与えるであろう指標なのです。
研究者と出版社は共生関係にあります。目的と品質の点で適切に連携協力できれば、両者ともに高い評価を得られるでしょう。では、 研究者と出版社はどのように連携協力するのでしょうか?
出版社は以下のようなプロセスを経て、論文の品質と革新性、インパクトを強化します。
1.品質・革新性・インパクトのための編集上の選定
2.査読
3.編集部による審査と最終選定
4.原稿の修正
5.最終校正
6.出版
研究者は出版に際して以下の工程があります。
1.投稿する出版社の選定
2.学術誌の規定に合わせて論文の体裁を整える
3.投稿
4.修正
5.受理(アクセプト)
6.出版
出版社の選定過程をさらに細かく記述する研究もあります。
ナイトとシュタインバッハは「Selecting an Appropriate Publication Outlet: A Comprehensive Model of Journal Selection Criteria for Researchers in a Broad Range of Academic Disciplines」(2018年)という論文のなかで、 研究者がどの学術誌に投稿するかを決める際の要素を示しています。
それは、次の3つのカテゴリーに分類されます。
・タイムリーに受理(アクセプト)される可能性
・受理の可能性
・投稿から出版までのスケジュール
・論文の潜在的な影響力
・学術誌の評判(信頼性と名声)
・学術誌の知名度
・哲学的・倫理的な問題
・オープンアクセスかどうか
・図書館の問題
・知的財産権・著作権の問題 (p. 71)
研究者と出版社の選定に関わる変数や要素は、研究の中身から出版スケジュール、倫理的な問題まで多岐にわたります。
しかし、研究者にとっても出版社にとっても、「評判」が重要な決定要因であることに間違いありません。 論文を投稿するにあたり、インパクトファクターの重要性を今一度、見つめてみましょう。