数学は他のSTEM分野の学問と同様、COVID-19のパンデミックによる試練に直面しましたが、それをきっかけに、 教員はデジタル社会のなかで前進する術を学んできました。また、未来のSTEM教育についても、コロナ禍が追い風となっています。 柔軟性やアクセスのしやすさ、授業規模から、採点や学習成果を向上させる形成的な学習機会まで、 これまで制約とされていたいくつかの包括的な要因を解消することが求められています。
オンライン空間でSTEM教育の可能性を広げようとする試みと、「採点をいつでも、どこでも」という思想は、 COVID-19のパンデミックが発生し、多くの中等・高等教育機関でデジタル化の準備が露呈する以前から、デジタル採点システム Gradescopeのチームが考えてきたことでした。もっともシンプルな課題は、「手書きの複雑な解答をどのようにデジタルに変換するか」 というものです。さらに、技術的な応用だけでなく、実際の学習への応用も考えなくてはなりません。
「採点は、STEM分野においても、非常に主観的になり得ます。最終的な解決策だけでなく、どのようにその解にたどりついたかが問題です。 最終的な解答は間違っているが、独創性や創造的な解決策を示された答案をどのように評価しますか?」コーネル大学、ケンドラ・ レッチワース=ウィーバー
韓国・国立慶北大学で准教授を務めるチョン・キリョン博士は、このような考察をもとに授業を実践してきました。今回は、 学生の計算スキルと数学的なライティング能力を評価する際の障害となるものについての洞察と、 Gradescopeがどのように数学の成績評価の改善に寄与したか、チョン博士の考察をご紹介します。
数学およびSTEM分野の採点の課題とはチョン・キリョン博士は、大学に入学してくる韓国の学生は、 全員が大学レベルの数学に取り組むのに必要な批判的思考力をもっているわけではないと考えています。記述試験は行われていますが、 限られた範囲で、数学問題の論理的な答えを求める程度で、 その背後にある数学的なライティング力を評価するようなものではないとチョン博士は考えています。そして、このような評価の不十分さは、 「大学の科学や工学、数学の授業で、学生の計算スキルと数学的ライティング能力を評価する際の課題」と指摘しました。
山積する課題のもうひとつの問題は、学習評価のプロセス全体を支える技術的なインフラが不十分であることです。これは、 学内で使用する学習管理システム(LMS)が、特定の学科や学問領域のニーズに対応できない場合はとくに当てはまるでしょう。 「国内のLMSでは、私も含め多くの数学者やエンジニアが必要とするような数学/工学関連の表現(入力設定、数式挿入、 出力インターフェースなど)が使えないので、その結果、ルーブリックのレベルが限られてしまう」とチョン博士は説明します。
また、大学レベルでの試験採点をさらに困難にする要因は、紙の答案を総合的かつ一貫性をもって採点する際の、 時間とリソース面での制約です。教員のリソースが採点に費やされることで、 講義の質を高めたり学習の溝を埋めたりする取り組みが阻害されるとチョン博士は考えます。「学生の論理的な文章力を評価し、 テスト結果について意味のある適切なフィードバックを提供するために、紙ベースの試験を実施するのは非常に時間と手間がかかるものです」
期末試験後に学期がほぼ終了するというカリキュラム構造については、形成的なフィードバックの機会が少ないことを指摘し、 「学生の学習成果に対して意味のあるフィードバックを提供できるのは、実質的には中間試験の前後しかない」と語ります。
採点の課題を解決するために教員が求めるものは?チョン博士がGradescopeを使い始めたのは2018年で、同僚の数学教員からオンラインで紹介されたのがきっかけでした。 ちょうどその頃、チョン博士は、試験のフィードバックを求めているけれど面と向かって教員に要求することを臆する学生のために、 フィードバックループを改善できるシステムを探しているところでした。
チョン博士は、学生が物理的な教室の外でも教員とコミュニケーションをとり、 自分の成績や関連する評価基準について説明を求めることができるような方法がもっとあるはずだと感じていました。 そこでGradescopeの無料トライアルに登録し、それらの学生のニーズに基づいてプラットフォームを試してみました。 期待する結果が得られたので、すぐに自分の受け持ち学生全体で使用し始めたのです。
チョン博士は、数学教員に共通する採点の悩みを解決してくれる、 Gradescopeのなかで特に気に入っている3つの機能を挙げてくれました。
課題1:従来の採点基準では、解答に達するまでのさまざまな解法を把握しきれず、採点の途中で部分点や採点基準の変更もできない。
Gradescope による解決策:採点基準を変更すると、採点結果を自動的に変換
「数学では正しい答えを導きだすまでに、さまざまな解法があるのが普通であるため、採点基準を決めることが非常に難しいのです。 すべてのプロセスが完全に間違っている場合もあれば、半分だけ正しいというケースもあります。 Gradescopeは数学教員のそのような苦悩を解決するための素晴らしいツールです」
課題2:従来のルーブリックや採点では、具体的な情報を十分に提供できない。
Gradescopeによる解決策:それぞれの答案に対する個別のコメント機能
「非常に素晴らしく、独創的な学生の解答があると、褒め言葉や励ましのような肯定的フィードバックを返します。反対に、 機械的な採点では高得点を取るけれど、特定の概念理解が不十分であると思われる解答のケースもあります。そのような場合、 問題点や改善すべき点を伝える修正的フィードバックが必要です。Gradescopeの個別コメント機能を活用すれば、 個々の学生に合わせたフィードバックを残せます」
課題3:複数の学生の類似または同一の解答を、個別に採点すると多くの時間を要する*。
Gradescopeの解決策:AIによる解答のグループ分け機能
「学生の解答の種類が限られており、似ているか、あるいはまったく同じになる小テストの場合は特に当てはまります。 そのようなテストの目的は、最低限の評価を実施し、集計結果に基づいて講義を改善・調整することです。Gradescopeの、 AIが自動で解答をグループ分けする機能を使えば、採点の時間を大幅に短縮できます」
*Gradescope使用前は、チョン博士は30人の学生に対して、小テストの採点に3時間、 試験の採点に8時間もかけていました。Gradescopeを使用する今は、小テストの採点は1時間、 試験の採点は2時間40分にまで短縮されました。
日々の教育の生産性と効率の向上以外に、チョン博士がGradescopeの有用性と効果を感じるのは、 学生の学業に変化をもたらす形成的なフィードバックです。「私にとってGradescopeの最大の恩恵は、 学生とコミュニケーションをとるための強力な武器を手に入れられたということです」。また、Gradescopeにより透明性が向上したことで、 学生が学習評価のプロセスを理解できるようになったことを評価しています。
「Gradescopeのおかげで、学生は講師が設定した評価基準や部分点の基準を確認し、 自分の解答がどの基準に当てはまるのか分かるので、不満や不信感を抱くことが少なくなります。Gradescopeを使い始めて、 学生から成績について苦情や質問が寄せられることが格段に減りました」チョン博士は、Gradescopeの導入以前は、時間的な制約から、 学生の学習傾向の分析は期末試験や最終単位取得の前に最低限行うだけだったと振り返ります。 そのためGradescopeの統計データや学生の試験記録を見直すことにより、自分の授業実践を改善するために「即座に」 振り返る時間を確保できるようになったことを嬉しく思っています。「それぞれの問題の難易度や解答プロセスの長さ・量を概観しながら、 使用したテンプレートを分析し、次回のための改善策を考えることができるようになりました」
大学が継続的なオンライン学習やハイブリッド学習を実践するなか、 リモートの学習環境におけるGradescopeの有用性は際立っています。チョン博士は、 オンライン学習へ全面移行せざるを得なくなった状況でGradescopeが非常に役に立ち、 そのようなツールをもたない他の教員よりも優位にたつことができたと感じています。
Gradescopeを同僚にも勧めたいと考えるチョン博士は、「大人数授業ではとくに、 Gradescopeを使えばチームティーチングや学生のレポートの共同採点を効率的にこなせることを強調したいです。 教員同士が直接顔を合わせなくても共同作業できるので安心です」と話してくれました。
Dr Kiryong Chung<br> Associate Professor <br>KyungPook National University, Korea