リモートの学習環境において形成的評価を行うことは、未知のものとの果てしない戦いのように思えるかもしれません。たとえば、 学生を学習に専念させるための社会的な要素を組み込みつつ、「ZOOM疲れ」とも闘うにはどうすればよいか? 完全なオンライン学習において、 学びを支えるために効果的なフィードバックを行う方法は?どのようにして授業に躍動感をもたせ、学業の質と誠実性を守ればよいか?
これらの疑問はどれも、オーストラリア ビクトリア大学の教育担当教員であるイングリッド・リー氏が、 ご自身の授業プログラムを計画するうえで直面されたものです。リー氏には以前、TurnitinのビデオキャストIntegrity Mattersにご出演いただき、オンラインでの形成的評価についてお話を伺いました。そのなかで、 学習成果や学習体験を高める形成的評価の成功事例に加えて、コロナ禍でのリモート学習において、ビクトリア大学が推進する「ブロック学習」 方式がいかにうまく機能しているかお話いただきました。
今回は前後編の2回に分けて、リー氏が「ブロック学習」方式から得た知見や、オンライン学習において効果的な「形成的評価」 を行うためのアドバイス、また、授業に躍動感をもたせ、学業の質と誠実性を守っていくための方法についてご紹介します。前編の今回は、 リー氏がビクトリア大学で実践されるユニークなブロック学習についてご紹介します。
Ingrid Lee | Teaching Focused Academic at Victoria University
オンラインでの形成的評価の実践を知るまえに、まずはリー氏の実施するプログラムの背景にある、「ブロック学習」 という教授理論について理解しましょう。
ビクトリア大学はオーストラリアで初めて「ブロック学習」モデルを採用した大学です。その学習モデルでは、 学期で区切る従来の教育方式とは異なり、ひとつながりの「ブロック」に区切って各科目(ユニット)を学習します。 同時に複数の科目を学習するのではなく、1ブロック(3~4週間)で1つの科目を修了するのです。授業は講義形式でなく、 少人数クラスで実施され、定期テストのかわりに4週間のブロックのなかで評価が行われます。
ビクトリア大学は、このさまざまな教育賞を受賞した「VUブロック・モデル」によって学生の単位合格率が上昇し(86.5%)、 最優秀成績者も増加(28%)したと報告しています。ブロック学習方式は、アメリカ合衆国やカナダ、 スウェーデンの大学でも成功例が記録されているものです。このような体験型の学習が学生の自信と自立心を育むという理念に基づき、 学生自身にブロック学習を深く理解させ、将来のキャリアに向けて準備をさせているのです。
ブロック学習の推進者が強調するのは、各ユニットの構造のなかに学びを支える仕組みがすでに組み込まれているので、 効果的な形成的評価が可能であるという点です。コロナ禍のリモート学習について、リー氏は次のように説明されます。
「このような状況においてブロック学習を進める利点は、通常よりずっと速い間隔で振り返りを行うことができる点です。 何がうまくいっており、何がうまくいっていないのかを見極めて、次のユニットに向けて改善することができます。教員は授業を、 学生は学習体験を向上させることができました」
ビクトリア大学では、ブロック学習モデルと、4週間という早い授業サイクルのおかげで、コロナ禍におけるリモート学習への移行において、 大きな構造上の変化は必要なかったとリー氏は述べられます。とは言え、フルリモートの教育環境がもたらす課題に組む必要はありました。 オンラインでは「教室の空気を読む」ことができず、対面授業のように集団が生み出すエネルギーを感じられないので、 クラス全体の熱量を測るのが難しいとリー氏は強調されます。
「オンライン学習で一番難しいのは、授業のペースが若干遅くなるので、授業の躍動感をつくる努力をしなければならないところです。 生き生きとした授業になるよう見直す必要があるのです」
リー氏のオンライン授業では学生の出席は問題になっていませんが、 学生が各々のタイミングでカメラをオフにしたり音声をミュートにしたりすることが課題となっています。オンライン授業に専念できない場合、 学生の匿名性が高まり、孤立する恐れがあります。新たに現われた「ZOOM疲れ」という現象も懸念されます。全員でないにしても多くの教員が、 そのような授業参加の課題に悩まされています。それについてリー氏は、学習の社会的な側面を再認識することが大切な方針だと述べられます。
「新たな試みとして、授業に事前課題を取り入れるようにしました。授業ではそれをもとに共同作業することを予告するのです。つまり、 課題解決型学習に、学習を「社会的な営み」と捉える『社会的構成主義』のアプローチを効果的に取り入れるようにしています」
リー氏はその授業方式を、テクノロジーを活用した体験型授業と説明されます。 バーチャル空間に昔ながらの馴染みのある仕組みを取り入れることで、テクノロジーのプラットフォームをうまく活用するのです。
「教員が用意した事前課題に学生が取り組んだあと、ZOOMのブレイクアウト・ルームに全員が集まり、 対面授業のときのように話し合いを始めるのです」。リー氏は、オンラインの学習環境において、 集団の社会的側面の見直しを積極的に進められています。