オーストラリア ビクトリア大学の教育担当教員であるイングリッド・リー氏にコロナ禍でのリモート学習について学ぶ前後編。後編では、 リー氏がメルボルン大学で実践されるオンライン学習における形成的評価の文化を根付かせ方、また包括的な評価の役割について、ご紹介します。
形成的評価の文化学習の社会的側面を強める以外に、リー氏とチームメンバーは、プログラムの中核的な強みである形成的フィードバックと学習評価について、 既存の仕組みをつくりかえることに時間を費やしました。「成長を積み重ねる」という学習モデルに注力することがオンラインでは求められており、 そうすることでパンデミックの影響下でも、学生も教員も正しい方向へ向けてしっかりと進むことができると確信しています。リー氏は、 応用学習と期待される学習成果のために、「詳細なルーブリック」「しっかりとしたフィードバック」「さらなる学習のためのアドバイス」 のループについてお話いただきました。
オンラインで形成的評価を強化するための指針
- 詳細なルーブリックを提示し、頻繁に説明する
- 成長の度合いを明確にし、学びを支える構造をつくる
- 常に評価基準を周知徹底する
- 評価の透明性を高め、誰もが理解できるようにする
- 教員間・科目間で、包括的で一貫した理想像を共有する
- 協働作業やピアレビューを取り入れ、社会的な学びを促進する
- オーセンティックな評価を通して、学びを具体的に体験できるものにする
- 率直で明確な、口頭でのフィードバックを継続的に行う
形成的評価の核心に踏み込んで、リー氏が「VUブロック・モデル」の画期的な点として紹介するのは、 従来型の講義や期末テストを行わないことです。それらは学生の学びを制限する可能性があるとリー氏は考察されます。形成的評価を活用することで、 教員は、学生の学習傾向に合わせて自分の授業を評価し、修正することができます。学生の理解を深めるための方策を模索し、 学生が傍観者になって情報を吸収しないというリスクを減らすことで、学生の学びの質が高くなると指摘されます。
「このプログラムの強みは、授業内での評価により、学生が学びながらフィードバックをもらえることです。 教員がユニットの最後に膨大な時間をかけて大量のフィードバックを書いても、学生がそれを次の学びに生かすことはないでしょう」
最後に、リー氏は逆向き設計の学習評価を実践することで、学術不正の可能性や、 オンラインで不正行為が横行するリスクを減らすことができると前向きな考察を述べられました。そのためにテクノロジー・ツールを活用することで、 誠実性と成果物の独自性を保証し、形成的評価の基準を満たすことができています。
「教室内の学びが起こる現場で評価を実施するようにすれば、学生は作成中の成果物についてアカデミック・ インテグリティを意識するので、独自の成果物が期待できます。このアプローチのためにTurnitinの製品を活用したことがあります。 アカデミック・インテグリティを守り、学生のリテラシーを高めるのに非常に役に立ちました」
オンラインでの学習環境では、どれだけ環境を整えても課題が残ります。そのため、 地球規模のパンデミックのもとで完全なオンライン環境へ移行することが、学生の学習体験に深刻な影響が及ぼしたとしても驚くことではありません。 多様なバックグラウンドをもち、さまざまなニーズを抱える人々に、より公正な学習機会を与える手段として包括的な評価を実施することが、 教育機関にとって今まで以上に重要になっています。メンタルヘルス問題や経済問題、 家からテクノロジーにアクセスできない問題などが学業やモチベーションに影響を与えますが、それらは氷山の一角でしかありません。
教員の「注意義務」と、コロナ禍でとくに重要となる「感受性」について触れつつ、 リー氏は学生の強力なサポーターとしての役割について述べられます。
「包括性というものは人間の思いやりに端を発すると思います。コミュニケーションを密にし、学生の言動の一貫性に注意をはらい、 授業の内容に関係のない会話をするためにディスカッション・フォーラムを活用しています」
さまざまな学生のバックグラウンドやコロナ禍でのライフスタイルの変化に気づいたリー氏は、「包括性はアクセスのしやすさと関連します。 そしてアクセスのしやすさは学生ひとりひとり異なるものです。オンラインではそれぞれが異なったサポートを必要とします」と助言されます。
そして、これまでビクトリア大学で採用してきたさまざまな支援方法を紹介しました。たとえば、 聴覚による学習が苦手な学生のために動画に字幕をつけたり、重要箇所を書き起こしたりしました。また、多くの学生にとってはオンライン授業に2、 3時間も集中し続けるのは大変であることを認識しましょう。学生の反応を見て継続的に改善することが重要です。
ブロック学習モデルにより、リアルタイムで学生の学びを把握することで、包括的な問題により早く気づき、 対処することができるとリー氏は強調されます。分断されたオンライン空間で取り残される学生をつくらないようにするために、 評価基準を周知徹底し、データを駆使して学生の成長パターンを把握し、 他の教員や学生と何気ないコミュニケーションをとることを提案されています。
大学や高等教育機関が行う形成的評価の取り組みに対して、リー氏はさらなる努力が必要であると述べられます。とくにこれから、 オンライン学習や、対面とオンラインを混ぜたハイブリッドな学習形態において形成的評価は重要です。
「効果的な形成的評価を行うには、それを学生の学びの一部として具現化させる必要があります。学期の最後に学習状態を把握しても、 かれらの学びに生かすことはできませんから、学生が積極的な学びを、さまざまな方法で、学習の進行にあわせて把握しなければなりません。」
教員の思考プロセスを見せることで、考え方を教えましょう。マインドマップやアウトラインを描いて、 あるアイデアの根拠を考えて証明するプロセス(それが自分独自のものであっても)を学生と共有するのです。問題を隅々まで検討し、 それを解決する過程をリアルタイムで学生に見せることをお勧めします。批判的思考の過程は、たいていの場合ブラックボックス化しているので、 それがどのようなものかを学生に理解させるには、教員自身が独自の思考過程を学生に見せるのが一番です。